前回(有機ELの光取出し②)の続きとなります。
前回は、モスアイ構造による段階的な屈折率変化について解説を行いました。それを踏まえて、モスアイ構造による『臨界角』への影響を説明します。モスアイ構造による反射率低減のメカニズムは、『屈折率が徐々に増加していく多層膜』として説明しました。臨界角についてもこの『屈折率が徐々に増加していく多層膜』として置き換えて、モスアイによる影響を説明します。
臨界角とは射出角が90°となる角度で、入射角が臨界角以上の場合は全反射が発生することを前々回(有機ELの光取出し①)で説明しました。
屈折率の差がわずかでもあれば、計算式より臨界角は存在することになります。屈折率の差が0.001であったとしても、臨界角は87.4°となり、87.4°より大きな角度の入射角の光は、空気中へ抜け出せないことになります。
次に、もう1層追加された場合を説明します。各層の界面では、n=1.1と空気の界面では臨界角が65.4°、n=1.2とn=1.1の界面では臨界角が66.4°となります。n=1.2からn=1.1への媒質へ入ることができた光は、空気との界面で全反射する成分があるため、全てが透過できるわけではありません。
n=1.1と空気層の臨界角θ1より、n=1.2とn=1.1の界面での出射角θ4が大きい場合には、全反射が発生し透過できなくなります。一方、出射角θ4が臨界角θ1より小さな場合は、透過できることになります。
この2層のケースでは、入射角θ3の空気層まで透過する臨界角は、n=1.2とn=1.1の界面での臨界角に比べ小さくなります。つまり、θ3の臨界角は上層の臨界角に支配されることとなります。
最後にモスアイ構造の場合ですが、『屈折率が徐々に増加していく多層膜』ですので2層でのケースに層を足していった状態となります。考え方は同じで上層の臨界角によって下層の臨界角が決まっていきます。
通常の臨界角の計算では出射角を90°として計算しますが、層中での臨界角は出射角を上層の臨界角に設定して計算します。5層のケースでは最終的に臨界角は41.8°となり、屈折率1.5の単層と空気層の界面の臨界角と一致します。
層数を100層や1000層に細分化したとしても、臨界角は同じ計算結果となります。滑らかな屈折率変化が起きるモスアイ構造においても同様の現象が起きていると考えられます。
結論としては、モスアイ構造が最表面にあったとしても、臨界角は変化しないことになります。
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